2020/1/4 中村哲先生最後の活動報告

〇中村哲先生“最後のアフガン活動報告”(2019年12月)
無償の国際貢献で内外の尊敬を一身に集めていた中村哲先生が活動地アフガニスタンで亡くなってから1か月が経ちました。世界中に悲しみが広がる中、現地では中村先生の指導で進められていた用水路建設の作業がストップしたままになっており、中村先生の“遺志”を継承する活動の再開が注目されています。
  
医師・中村哲先生は何者かの銃撃で命を落とす約2か月前、外国人に対して異例の「アフガニスタン・イスラム共和国市民証」が贈られました。上の写真は、2019年10月7日、同国のアシュラフ・ガニ大統領から「市民証」を渡された時のもので、ガニ大統領は五分間もの長い抱擁で感謝の気持ちを表されたそうです。中村先生は「今回の市民証=名誉国民の地位授与は、ペシャワール会の活動がいかに現地に人々に溶け込んでいるかの表れで、これからも人々の希望と国土の回復を目指し一緒に活動を続けたい」と決意を改めて表明されており、その矢先の全く予期しない悲劇的な死となりました。
中村先生の訃報が日本に伝わった正にその日に、会員を対象とした「ペシャワール会報№142」が発送されましたが、会報冒頭の現地報告が中村先生の「遺稿」となりました。

中村先生のご冥福をお祈りするとともに、様々な障害・困難な状況下にあって一致団結して先生を支え共に活動されたペシャワール会(村上優会長)の皆様に敬意を表して全文を紹介させて頂きます。

『               凄まじい温暖化の影響
 ―とまれ、この仕事が新たな世界に通ずることを祈り、
        来たる年も力を尽くしたい
          PMS(平和医療団)日本総院長/ペシャワール会現地代表 中村哲

全ての力を川周りへ
川とにらめっこしているうちに寒くなり、河川工事の季節が再び巡ってきました。みなさんお元気でしょうか。
今冬の川の工事は、カマ第一堰(せき)右岸の補強工事に加え、マルワリード堰の抜本的な改修があります。既に7月から準備し、川の水が下がる10月下旬、「全ての力を川周りへ」と、一気に取りかかりました。カマ第一堰は最新の堰でしたが、対岸に予期せぬ浸食が発生したため、急遽決定したものです。増水期の3月までに、全ての必要な工事を速やかに終えねばなりません。
最大の標的はマルワリード堰で、堰だけでなく用水路の本格的な改修が予定されています。これは建設後16年を経て、ある程度の補強が必要になった部分があり、昨年秋の鉄砲水被害からの復旧もあります。また、何よりも今後の維持の上で、私たちが範を垂れておく必要があります。

人々の生活の安定を
マルワリード用水路は山腹を這うように作られています。鉄砲水や土石流が通る谷をいくつも通過します。谷といっても、4000m級の山から流れてくる洪水や土石が、信じられないような勢いで下ってきます。日常的に通過する所はある程度対策が立てられますが、最近の降雨は予測が不可能で、大丈夫と思っていた箇所が鉄砲水で決壊したり(上・写真)、通過水量が予想をはるかに超えたりで、その都度マメに補修しながら守る以外にないのです。
普通の国なら行政が責任をもって保全するのでしょうが、まだまだ途上のようです。ここでは安全とはテロ対策のことばかりで、人々の生活の安全が考慮されてきたとは思えません。今は地元民と協力しながら、将来の河川行政の確立を待つ他はないようです。
猛烈な勢いの砂漠化に抗して、今はとにかくこの希望を守り育てるべきだと考えています。
「緑の大地計画」は更に拡大の勢いで、来年からはバルカシコート堰、ゴレーク堰が着手されています。

バザールが立ち並んで大混雑
このところ、作業現場までの道路が信じがたい大混雑で、いつの間にか延々とバザールが立ち並び、それが常態となってしまいました(下・写真)。以前には考えられないことです。特にジャララバードからカマ郡に至る約20km区間がひどい状態です。
考えれば当然で、農地が復活した私たちの作業地(ジャララバードの北部3郡)が州内で最も住みやすい場所になっているうえ、これまで最大の避難先であったパキスタンが難民の越境を厳しく取り締まり、もう逃げていく場所がないからです(パキスタン自身が何年も不作と不況に喘いでいます)。

干ばつは確実に進行
水の仕事を始めてから19年、干ばつは動揺しながら確実に進行しているように思われます。かって豊かな農村地帯で聞こえたソルフロッド郡は砂漠化で見る影もなく、スピンガル山麓一帯は僅かにドゥルンタダムからの用水路が細々と潤すにとどまっています。川沿いも気候変化で渇水と洪水が併存し、年々荒れていきます。温暖化の影響はここアフガニスタンでも凄まじく、急速に国土を破壊しています。
それでも依然として、「テロとの戦い」と拳を振り上げ、「経済力さえつけば」と札束が舞う世界は、砂漠以上に危険で面妖なものに映ります。こうして温暖化も進み、世界がゴミの山になり、人の心も荒れていくのでしょう。一つの時代が終わりました。
とまれ、この仕事が新たな世界に通ずることを祈り、真っ白に砕け散るクナール河の、はつらつたる清流を胸に、来たる年も力を尽くしたいと思います。
良いクリスマスとお正月をお迎えください。 2019年12月 ジャララバードにて 』


<砂漠から甦った用水路>

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